ライブレポ plenty ラストライブ「拝啓。皆さま」@日比谷野外大音楽堂(野音)

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2017年9月16日土曜日。ラストライブを発表してから早5か月。その間にplentyは全国12か所に及ぶラストツアーと2か所のフェス出演を経て、ついにこの日を迎えた。そんなに周っていたのかと驚くほどあっという間に時は経ち、時間という流れの速さに痛いほど気付かされる。

16日の東京は台風接近の影響で、降水確率100%の雨予報。しかし、開演時間が来るまで少しパラパラと落ちる程度で雨はほとんど降って来なかった。これさえもplentyの力なのだろうか。リハ中は雨が降ってたんだからそうとしか考えられない。

18時。開演時間になると、涙が溢れ出るみたいに空から雨がぽたぽたと落ちてきた。

Imogen Heap『Hide and Seek』の流れるステージ。plentyのライブで聴くのも最後なのかあ。そして、現れた本日の主役たち。いつも見るおなじみの光景。いつもと違うのは今日が最後だってことくらい。3人はそれぞれの定位置に立ち、いよいよフィナーレへのカウントダウンが始まる。

ジャージャン!ドン!ジャージャン!ドン!おなじみのフレーズが聴こえてきた。『拝啓。皆さま』。いつも通りに3人のドラスティックで生命力に満ちた演奏が聴こえてくる。いつも通りなのにいつもと違う。これから演奏する曲全てがラストパフォーマンス。そんなことがふと浮かんできて、胸がチクチク痛む。色んな想いが込み上げてきて、頭の中がパニックになる。どうすることもできないから、ライブを目に焼き付けることに全身を注ぐしかない。ステージから送られる最後の言葉と音を一秒も逃すまいと、全神経を目と耳に集中させた。

 

『ボクのために歌う吟』『空が笑ってる』『人との距離のはかりかた』。初期を代表する名曲が次々に放たれる。僕は何度この曲たちに支えられたのだろう。何度この言葉たちに救われたのだろう。全ての曲に思い出がある。1曲1曲演奏されるたびに色んな記憶が蘇ってくる。まるで写真アルバムを一枚一枚めくってるような気分。「走馬灯のように蘇ってきて」と江沼はステージで語っていたが、それは会場にいるファンも全く同じだったのではないだろうか。

直接受け取る言葉には音源で聴く以上に突き刺さってくるものがある。それはなぜだかわからない。改めて生で聴いてみると、想像以上にハッとさせられる瞬間がたくさんあって、ライブという素晴らしさを再認識する。

 

『これから』~『待ち合わせの途中』までの流れは圧巻の一言。plentyの気迫あふれる強靭なロックサウンドが炸裂。爆発した時の3人が起こす化学反応にはいつも驚かされた。plentyの音楽を完成させるにはこの3人でなければならない。江沼は新田と2人体制になった時から「バンドになりたい」との想いを数々の場面で口にしてきた。そして、2015年8月ついに中村一太がplentyのドラマーとして加入。plentyは再度ロックバンドとして再スタートを切った。一太が加入してからのplentyは更に目覚ましい進化を遂げ、恐るべきバンドにバージョンアップを遂げた。ラストツアーでも一段と輝きを放っていた『砂のよう』。江沼、新田が一太の元へ集まって、3人が情熱的なセッションをかます。普段、感情をあまり表に出すことのない新田も頭を上下に揺らしながら、アグレッシブなベースを魅せる。オーディエンスはステージにのめり込むように無中で彼らに見入る。全身が震えた。plentyの音楽に細胞が共鳴する。

江沼は「えい!!」と時折叫びながら、感情に身を任せてギターを無邪気にかき鳴らす。その場を思いっきり楽しんでいるようだ。理屈で音楽を鳴らさない。これこそ江沼が2人だった時に思い描いていた形なのかもしれない。

新田はラストライブを記念して発売されたフォトブックのインタビューでこう述べている。「やっぱり前にふたりでやってた時、郁弥も俺もすごく辛かったから」。

一太が脱退の意思を明確にしてから、2人でやる道を選択しなかった理由があのステージでの光景を目にして、なんとなく分かった気がする。やはりplentyが過去のように2人に戻ることはあり得ないのだと。

 

「雨でごめん!でも楽しもう!」短く会場のお客さんに言葉をかける江沼。そういえばライブが始まってから、雨は本格的に強く降ってきていた。新調したレインコートはびしょびしょになり、ステージ前には水たまりが。まるで雨がplentyの登場を見計らっていたかのよう。あれは悲し泣き、嬉し泣き、寂し泣き、たくさんの涙が詰まった雨だったのだと思う。ライブ中に強く降り注いだ雨は終演後弱まったのだから、plentyはつくづく不思議な力を持ったバンドだと思う。

 

雨の止まない野音で、『あいという』がドロップされる。僕がplentyを好きになるきっかけとなった思い出の曲だ。悲しいのに美しく、胸がヒリヒリする不思議な曲。尊さを感じる江沼のハイトーンボイス。全てが奇跡のような壮大な作品。

今日の空模様を暗示していたかのような言葉が余計に身に染みる。

<嘘はないでしょ 二人の中には 降りしきるのは雨>

<傘はないから 手をつないでいてよ 暖かいでしょ ねえ>

青く光る照明が降りしきる冷たい雨をより一層際立たせ、幻想的な光景が目に映る。なんでこんなにも寂しいんだろう。だけど何度もこの曲を聴きたくなる。美しく儚い。plentyの全てを物語る1曲。

 

トーンの高い歌声が聴こえた来た。『ドーナツの真ん中』。『あいという』の後にこの曲を選択したのにはちゃんと理由がある。『ドーナツの真ん中』は江沼にとって『あいという2』なのだ。

 

「『あいという』を作ってる時は、俺には愛がわからなかったんですよね。だから愛ってわかんないなっていうひとつの切り取り方だったんだけど。それで考えていった時に、でも愛っていうのはドーナツの真ん中みたいなもんなんじゃないかってなんとなく思って...愛というもの自体には形はなくて、空洞の周りを悲しみとか喜びとかそういうものが形どっている、そういうものが愛なんじゃないかっていうふうに思って...それを今なら歌えるっていうか、描き切れると思った。だからこの曲は、明るさの感じも全然違うんだけど、やっぱり『あいという2』なんですよ」

 

『MUSICA』 FACT 2015年11月号 3rdフルアルバム「いのちのかたち」インタビューから引用

 

 

『あいという』の後は『ドーナツの真ん中』でなければならなかった。セットリストがいかに考えられたものであるか。それはこのシーンを取ってもよく分かる。何色にも重なったカラフルな照明がplentyのサウンドをきらびやかに彩る。『あいという』とはまた形の異なる「愛のうた」が雨と共に野音へ降り注がれる。

 

ラストライブはあっという間に終盤へ。連続でドロップした風シリーズ(『風の吹く町』『風をめざして』)で本当に強く風が吹いてきたのだから、この日の天候は完全にplentyのための天気だったとつくづく思う。

plentyのラストアルバム「life」で最後を飾る1曲『風をめざして』。なんだか今の彼らの想いを代弁しているような気がして、一つ一つの言葉が心にズドーンと突き刺さってくる。

<抗って抗って後悔など擦り切れるまで 様々な、出逢いや、別れを繰り返しては たたかって たたかって この生命が燃え尽きるまで いうならば いうならば 強く、やさしく、自由な この風のように>

決意に満ちた力強い言葉。今の想いだけでなく、plentyから僕らに送られる最後のメッセージな気がして、思わず背筋が伸びる。そう、彼らはまだ旅の途中なのだ。続けてドロップされた『傾いた空』でもこう言い放つ。

<そこにどんな答えがあっても まだまだ終わりはないだろう そう、ここから 向こうへ続いてる いま終わりの先へ>

終わりの始まり。3人の想いを代弁するかのように、音楽に乗せて高らかな決意が届いてくる。寂寥感が溢れていたのになんだか、plentyに「くよくよすんな!お前の旅は終わってないぞ!」と激励されている気がした。たくさんの愛を届けたいはずなのに、結局いつも助けられてばかりだ。

拍手は鳴りやむどころかどんどん大きくなっていく。「ハハハッ(笑)」。嬉しそうに、はにかんで笑う江沼。江沼は会場にいるお客さんに感謝の言葉を述べた。「(しばらく沈黙)・・言葉になりません。本当にありがとうございました。plentyでした」。

えっもう終わり?時計を見たわけではないが、エンディングだとしたらあまりに早い気がする。頭の中がパニックになる中、『手紙』がステージから聴こえてくる。一旦心を落ち着かせて、ステージの演奏に集中。plentyから送られる本当に最後の手紙。どんなに願ってももう時間は止まらないし、過去には戻れない。だからこそしっかり噛み締めようと、この光景を必死に目に耳に焼き付けた。

 

会場から大きな拍手を浴びる中、3人はステージに別れを告げた。会場は暗転。慌ててスマホを開く。画面に映る19時25分の文字。本編ライブが1時間半という短さに驚いた。ラストライブなのに、1時間半で本編が終わるなんて想像もしていなかった。しかし、まだ終わったわけじゃない。「動揺してる場合じゃない」と自分に言い聞かせ、みんなと一緒に手を叩き、plentyの帰還を待つ。

 

ステージが明るくなると、再び大きな拍手が響き渡る。plentyがステージへと戻ってきた。笑顔を浮かべながらファンの声援に応える3人。いよいよ本当に最後。ステージを去ったらもう戻ってくることはない。気持ちの準備を整えて、全神経をステージへと向かわせる。

野音が静寂に包まれる中、薄暗いステージで一太がシンバルを「コーン」「コーン」と静かにそっと鳴らす。江沼がおなじみのギターリフを鳴らした瞬間、3000人を超える場内から大きな歓声が聴こえてきた。『東京』だ。plentyのライブで曲が始まる瞬間に歓声が起きることなんて、あまり経験したことがない。会場を取り巻く独特の雰囲気に、終わりが近づいていることを実感させられて、あふれる感情がこぼれそうだ。

就活していた時によく聴いていた『東京』。しかも、東京駅や有楽町駅の近くを歩く時は、なぜか決まってこの曲の再生ボタン押していた。どんなに頑張っても頑張っても、返ってくるのは心のこもっていない「お祈り」という名の激励メールばかりで、生きることに嫌気が差していた毎日。そんな自分を本当に救ってくれたのは、plentyが歌う『東京』だった。

なじみ深い場所で直接聴く最初で最後の『東京』。薄暗いステージで白く光る照明に写る3人のシルエット。どこか寂しげな江沼のハイトーンヴォイスと淡く切ない新田のベースと一太のドラム。気付いたら色んな感情を吐き出すようにボロボロと涙がこぼれ落ちていた。もう我慢できなかった。間違いなくplenty史上最も美しくて切ない『東京』。こんな素晴らしい光景絶対忘れちゃいけない、いや、忘れるわけない。この場所にいれる僕は世界一幸せ者だ。

 

『よろこびの吟』『空から降る一億の星』『嘘さえもつけない距離』『人間そっくり』。plentyの歌はどうしてこんなにウットリするほどドラマティックで美しいのだろうか。ただただ美しくて綺麗というわけではなくて、孤独の中を黙って一緒に歩いてくれたり、絶望の底にいる自分に希望の光を差してくれたり、いつでもどんな時も彼らは僕の心に優しく寄り添ってくれた。時には大切なことも教えてくれた。だから多くの人に愛されたのだと思う。

どんな曲にもたくさんの思い出が詰まっている。曲が流れるたびにその思い出が頭の中を駆け巡り、脳内で懐かしい記憶が映し出される。音楽とはつくづく不思議なものだ。すぐにあの頃の思い出と共にタイムスリップできるのだから。

 

plentyとの別れの時間が近づいていることは、皆なんとなく分かっていた。それでも悲しむだけでなく、3人との最後の時間を思い残すことのないように楽しんでいた。『さよならより、優しいことば』ではみんなで手を挙げながら「ワァーワァー♪」の大合唱。会場全体のスイッチが入ったように、フロアのボルテージはここからどんどん高まっていく。plentyの中では絶対外すことのできないロックナンバー『枠』がドロップされると、場内の歓声は最高潮に。3人のダイナミックで躍動感のあるバンドアンサンブルに、精一杯の気持ちを届けるようとたくさんの手が挙がる。この光景が僕はたまらなく好きだ。

『枠』の後に来るのはお決まりのあの曲。『最近どうなの?』。江沼がジャーンとギターフレーズをかき鳴らし、今日一番というくらい大きな声で「エイ!」と叫んだのを合図に、3人の音が一斉に鳴り響く。3000人を超える、いや音漏れの人たちを含めるともっといたかもしれない多くの人で「おっおっおっおっおー」の大合唱。永遠に続いてほしいと願ったのは自分だけはないはず。

手を挙げたり、体を揺らしたり、じっと聴き入ったり。何かに強制されるわけでもなく、皆が個々のスタイルで楽しんでいる。それなのに一体感も共存していて。不思議な空間がそこにはあった。それがplentyのライブだった。

 

この日何度も耳にした、あたたかで愛のあふれた大きな拍手が会場中に響き渡る。一向に鳴り止まない。むしろどんどん大きくなっていく。「江沼さんー!」「一太さーん!」「ニッチーー!」。感謝の想いがあちこちから放たれる。

「言葉になりません。本当にありがとうございました。さよなら!!!!!」。江沼の最後の言葉と共に、plentyがステージから送る最後の1曲『蒼き日々』の演奏が始まった。雨と涙で顔はグシャグシャ。だけど、この時間を忘れないよう必死に心に焼き付けた。

MCは少ないし、お客さんとコミュニケーションを取りながら会場を盛り上げるのが上手なわけでもない。しかし、彼らは不器用だけど、僕らを一生懸命楽しませようとしてくれて、音楽でコミュニケーションを取ろうとしてくれて。もうそれだけで十分伝わるし、みんなにも確実に届いてて。だからplentyとファンは長年連れ添った夫婦みたいに落ち着いていて、居心地が良い。まさにあうんの呼吸ってやつ。こんなバンドは他に見たことがない。彼らはいつも実直に、正面から向き合ってくれた。

「わかってるよ。ありがとうね」。言葉に出さずとも分かり合えるなんて、そんな容易いことじゃない。長い年月かけて丁寧に積み上げてきたからこそ成し得る絆だと思う。皆この先の未来のことなんて考えずただただ今を生きていた。今に悔いを残さぬよう楽しんでいた。

 

終演後、3人はステージ前まで出てきて手を振り、声援に応えながら、ファンへ感謝を告げ、ステージを去っていった。すると場内から聴こえてきたいつものSE。エンディングに流れる最初で最後の『Hide&Seek』。ステージを去っても拍手は鳴りやまず、どんどん大きくなっていく。誰も会場から離れようとしない。名残惜しくて離れたくないという気持ちでいっぱいだった。「お願いだから戻ってきて!!」。そんな気持ちでいっぱいだった。みんなも同じ気持ちだったのだと思う。こんなに長く続く拍手は一度も目にしたことがない。その光景が胸がいっぱいになり、顔がどんどんグシャグシャになる。

最後にステージのスピーカーからplentyファンへの感謝と、3人の今後への応援をお願いするアナウンスが流れた。終演後に流れた『Hide&Seek』とアナウンス、実はplentyへのサプライズプレゼントだった。リハーサルでのエンディングと入れ替えたので、plentyは全く知らなかったそうだ。後日放送されたラジオ番組でその旨が明かされた。なんて素晴らしいスタッフなんだろう。本当に彼らが愛されていたと分かるエピソード。それだけplentyが届けてきた愛は深かったのだと思う。plentyは僕らにたくさんの物を与えてくれた。

 

歌は時にあらゆるものを超越する。それを教えてくれたのはplentyだった。何を言われても、誰に言われても響かなかった僕の心がなぜか彼らの歌だけには反応した。運命ってあるのかわかんないけど、たぶんそれに値する瞬間だったと思う。

plentyに出会った2012年。東京グローブ座で彼らを初めて目にした2013年。それから僕は数々の挫折を味わった。高い壁にぶち当たっては超えられない自分を恨んだ。ボロボロになった自分に彼らは励まし、寄り添ってくれた。多くのことを教えてもらった。生きる歓びや人の温もりに気付かせてくれた。救いの手を差し伸べてくれた。同じ高さに立って、真っすぐ向き合ってくれたことが嬉しかった。

まだまだ教えてほしいことがたくさんあったのに。あなたの言葉を聴きたかったのに。

わかってる。そろそろ一人で頑張らなくちゃいけないよね。あなたからもらった言葉を胸に抱えて生きていくよ。今まで本当にありがとうね。一緒に過ごした5年間を一生忘れません。蒼き日々をありがとう。今後の3人の活躍を心から願って。さよなら!じゃあね。

 

plentyラストライブ「拝啓。皆さま」@日比谷野外大音楽堂 セットリスト

1.拝啓。皆さま

2.ボクのために歌う吟

3.空が笑ってる

4.人との距離のはかりかた

5.明日から王様

6.これから

7.砂のよう

8.先生のススメ

9.待ち合わせの途中

10.ETERNAL

11.良い朝を、いとしいひと

12.あいという

13.ドーナツの真ん中

14.風の吹く町

15.風をめざして

16.傾いた空

17.手紙

 

アンコール

18.東京

19.よろこびの吟

20.空から降る一億の星

21.嘘さえもつけない距離で

22.人間そっくり

23.枠

24.最近どうなの?

25.蒼き日々