plenty 2015年 秋 ワンマンライブ@日比谷野外大音楽堂

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plentyの目覚ましい進化と、溢れんばかりの愛を感じた野音でのパフォーマンス

とにかく寒かった。この日は事前の天気予報で言われてたほど、日差しが差し込む時間が短く、気温があまり上がらなかった。おそらくライブ中は、15度を下回っていたと思う。ボーカル江沼郁弥が何度も手に温かな空気を吹き込んでいたことからも、かなりの寒さだったことがわかる。演奏する側としても、良いコンディションとはいえなかっただろう。

 

それでもplentyは熱量の高いライブを魅せて、オーディエンスの心をじんわりと温めてくれた。

ライブは『プレイヤー』から幕を開ける。『ボクのために歌う吟』では、江沼が体をスウィングさせ、徐々にテンションを上げていく。

2曲目が終わると、江沼は「寒いですが、楽しみましょうねー」と優しくオーディエンスに挨拶。心がなごみます。

『子供のように』『above』とニューアルバム『いのちのかたち』から2曲が続き、ここでスペシャルゲスト世武裕子が登場。

 

世武とは何度も共演を果たしており、呼吸の合った演奏を披露。plentyの織りなす音楽に、美しくも突き刺さるようなピアノサウンドが加わり、観客の心をplnetyの世界へと引き連れて行く。

グローブ座で行われた『(re)construction』でのライブでも感じたが、本当にこのコンビは相性が抜群だと思う(グローブ座で歌われた『いつかのあした』は素晴らしく最高だった)。それぐらい彼らのメロディはピアノサウンドを引き立たせてくれるものであるし、世武の巧みな演奏はplentyの音楽に新たなエネルギーを吹き込む。

 

そして、このライブでの特に印象に残ったのは『あいという』から『ドーナツの真ん中』という一連の流れだ。

個人的に愛着のあるplentyの大名曲『あいという』。この日はいつも以上にゆったりとしたテンポに聴こえた。1つ1つの音と言葉を丁寧に扱い、観客に聞くように歌っていた姿が非常に印象的だった。『愛とはなんであろうか?』と私達に問いかける江沼郁弥。

そして提示した1つの答えが、江沼が『あいという2』と評する『ドーナツの真ん中』だ。江沼はMUSICAのインタビューでこんなことを述べている。

 

 

「愛というもの自体には形はなくて、空洞の周りを悲しみとか喜びとかそういうものが形どっている、そういうものが愛なんじゃないかっていうふうに思って、、」。

 

『MUSICA』  2015年11月号 FACT plentyインタビュー p190より

 

一つの答えとして提示された愛は曖昧だが確かなエネルギーの感じるサウンドで、オーディエンスはその愛を思う存分に受け取る。

 

穏やかで優しい空気が包み込む雰囲気の中、新たなスペシャルゲストである山本拓夫(サックス)、村田陽一トロンボーン)、西村浩二(トランペット)の豪華なホーン隊が登場。ここからの流れはまさに圧巻だった。

まずは今年4月にLPとしてリリースされた『体温』が披露される。優しく包み込むメロディと緩やかなテンポに心は温まり、ホーンがその心に揺さぶりをかける。最初は寒さの影響からか少しおとなしく見えたオーディエンスも、彼らの演奏に操られるかのように無意識的に体を揺らし始め、グルーヴを生み出す。音楽の魔法にかけられたその光景は、非常に美しく生命に満ち溢れていた。

 

『或る話』からは、『待ち合わせの途中』や『枠』『最近どうなの?』といったナンバーが間髪入れずにドロップされる。繊細かつダイナミックなパフォーマンスは、観客を熱狂の渦に巻き込む。演奏する3人も何かに憑りつかれたように圧倒的なグルーヴを生み出し、エネルギーに満ちたサウンドを次々と繰り出していく。そこには音源とは異なるアレンジなど、演奏に幅広さがあり、それが一層サウンドの味わい深さを強化していく。

 

『待ち合わせの途中』では、江沼が「天気予報は晴れのマーク今日が晴れて本当に良かった」と序盤の歌詞を変えて、本日の天候に感謝。そんな突然のアレンジに観客から大きな歓声が沸く。思わぬプレゼントに対する恩返しと言わんばかりに『枠』のサビに合わせてオーディエンスがハンズアップをし、ライブを盛り上げる。plentyとファンは完全に心と心で繋がっていた。

 

この流れのトドメとしてチョイスされたのは、7月にシングルとしてリリースされた『さよならより、優しいことば』。「ワァーワァー♪」と、サビの部分を江沼と一緒に心の中で歌うオーディエンス。別に言葉にするわけではない。でも何か確かなものを、共通する何かを持って心で叫んでいたんだと思う。まさに音楽を右脳で感じ、表現していた。

 

いよいよライブは終盤へ。まずは『よろこびの吟』。江沼の尊く透き通ったハイトーンヴォイスは、野音の夜空へと天高く伸びて行く。とても綺麗で、生きることの喜びを祝福するまさに『よろこびの吟』だった。

 

本編ラストは、アルバムでも最後を飾る『愛のかたち』が披露された。曲に合わせてオレンジ色の照明が観客を照らす。あれはハロウィンを祝うパンプキンの色ではない。暖かな太陽のような、いのちのような、生きるエネルギーのような、力強さのある今のplentyを表現する光だ。そんな光と、plentyの紡ぎ出す言葉とメロディが一気に放出され、野音全体に降り注ぐ。それは素敵な、なんて素敵な光景だったことか。

 

アンコールも言うまでもなく素晴らしかった。再び世武裕子が登場し、演奏された『somewhere』。この曲の透明感のあるダークさに、ピアノサウンドの刺激的なスパイスが加わり、音源とは違った印象をもたらす。

曲が終わると、世武に続きホーン隊が再び登場。「一斉攻撃をしたいと思います。」との宣言から、まずは『ETERNAL』からスタート。ここでのアレンジは度肝を抜かれた。特に間奏部分。サックス山本拓夫の独創的でテクニカルな演奏とドラム中村一太の変則的なドラミングが独特のグルーヴを生み出し、魅惑の世界へといざなう。あれは中村が加入した今のplentyだからこそできるアレンジなのだと感じた。ストリングスの『ETERNAL』は非常に清らかで美しい曲だったが、ホーンが加わった『ETERNAL』はパワフルで熱量の高いサウンドで、ストリングスとは全く異なる作品に仕上がっていた。

 

エモーショナルな『傾いた空』が終わり、いよいよライブは『蒼き日々』でフィナーレを飾る。「独りきりでもいいだろ」と吐き捨てるかの如く歌われるこの曲も、何かポジティブな力強さを感じた。それくらい今回のライブは、時には陰の部分を抱えつつも、前向きに生きていく事の喜びを体現してくれたものだった。

 

plentyは中村一太というドラマーの加入により大きく成長を遂げた。今回のライブでは『先生のススメ』や『ETERNAL』など、所々で音源とは異なるリズムアレンジが見られた。特に『枠』で魅せたドラムアレンジは本当に見事だった(このアレンジは去年渋谷公会堂で行われたYoutubeライブ動画でも見ることが出来る)。

ロディアレンジもそうだが、一太の多彩なドラミングやピアノ、ホーンが加わったことで江沼の思い描いている音楽を今まで以上に体現出来るようになり、アレンジ全体にに磨きがかかっていた。それによって新田紀彰のベースラインがより活きる形となり、重層的で胸を打つサウンドが生まれていた。彼らが生み出した相乗効果が、お客さんの心と身体を揺さぶっていたのだと思う。

 

演奏する彼らもそれを十分に感じていたのだろう。江沼や新田がリズムに乗って、腰を揺らす。『待ち合わせの途中』で魅せてくれた新田のノリに乗ったベースラインが非常に印象的だった。

かき鳴らしているギターに従って、江沼がその場を楽しみながら自由に動き回り、全身を左右上下に揺らす。中村一太も満面の笑みを浮かべながらドラムを叩く。何度も江沼や中村の方へと体を向かせ、音を一緒に響かせ、一緒に音を感じる新田。3人の充実感のある表情から、今のplentyが最高の状態であることをとても感じ取れた。plentyが生み出したグルーヴがお客さんに伝染し、会場全体にグルーヴ感が生まれる。音楽を楽しむことの大切さを改めて学ぶことが出来た。

 

愛や生きることの答えを探しさまよっていた、膝を抱える孤独な男の子が導き出した一つの答えは、私達には計り知れないほど大きな「愛の、いのちのかたち」だった。もちろん全てではないが、少しでもその提示された愛と生命を感じることが出来たことだけでも、このライブに来た甲斐があった。

 

今後、plentyはまだ見ぬ壮大なものの答えを追求し続けることだろう。そして今以上に大きな存在になっていくことは間違いない。これからどんな進化を遂げていくのか予想が出来ないが、本当に楽しみで仕方がない。このバンドに出会えて、私はとても幸せ者だ。そんなことをひしひしと感じる野音でのライブだった。

 

plenty 2015年 秋 ワンマンライブ@日比谷野外大音楽堂 セットリスト

1.プレイヤー

2.ボクのために歌う吟

3.子どものように

4.above

5.心には風が吹き 新しい風を朝をみたんだ

6.よい朝を、いとしいひと

7.人との距離のはかりかた

8.あいという

9.ドーナツの真ん中

10.体温

11.或る話

12.先生のススメ

13.待ち合わせの途中

14.枠

15.最近どうなの?

16.さよならより、優しいことば

17.よろこびの吟

18.愛のかたち

 

アンコール

19.somewhere

20.ETERNAL

21.傾いた空

22.蒼き日々

 

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