ライブレポ 米津玄師 2018LIVE「Fogbound」@日本武道館1日目

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2017年11月1日の大阪公演から始まったツアー「Fogbound」は12月24日の広島公演まで全国20公演を行い、2018年1月9日に追加公演となる日本武道館2daysの初日を迎えた。

個人的には2018年1発目のライブ。武道館は2017年1月に行われたASIAN KUNG-FU GENERATIONの結成20周年ライブ以来で、その時も年が明けてから最初のライブだった。武道館から始まる1年とは何とも贅沢なことだろうか。それも2年連続なのだから本当に幸せ者だと思う。

米津のライブを見るのはこれが3度目。1度目は2016年のツアー「音楽隊」でのライブ、2度目は去年夏に開催された東京国際フォーラム2days、そして今回の武道館である。

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19時過ぎ。照明が落とされ真っ暗になった瞬間、地響きのような歓声が一斉に鳴り響く。米津自身初となる日本武道館でのライブが幕を開けた。

ファーストナンバーとして今回のツアータイトルにもなっている『Fogbound』を披露。ステージはスモークが充満し、楽曲の持つ儚さがより強調されている。「Bremen」までの楽曲群とは色の異なる、ゆるやかなリズムのR&Bサウンドが何とも心地良く、現在進行形でアップデートされ続ける米津玄師の今を体感する。

 

「どーも米津玄師です!今日はよろしくお願いしますっ!!」とイントロリズムに合わせて調子よく挨拶をかまし、『砂の惑星』をドロップ。会場のファンから熱狂的な歓迎を受ける。

「武道館ー!」と勢いよく叫んだ直後にマイクを落として歌に間に合わないハプニングがあったものの、何事もなかったように、メロディに乗せて流れるようなラップで己のメッセージを訴えていく。

その後は「ルーブルNo.9 ~漫画、9番目の芸術」のイメージソング『ナンバーナイン』、「風の谷のナウシカ」からインスパイアされた『飛燕』、フレンチポップを意識して制作された疾走感のあるラブソング『春雷』、オーディエンスが体をゆらゆらしながら穏やかな一体感に包み込まれた『かいじゅうのマーチ』など、序盤は「BOOTLEG」の作品を立て続けに披露し、世界のポップミュージックや現代の風潮などあらゆるエッセンスを吸収し、米津サウンドに昇華させた最新アルバムの世界観を十分に味わせてくれた。

今回はバンドの背後だけでなく、米津とバンドメンバーが立つ地面にもディスプレイが施され、そこに映像が映し出されるというステージセットに仕上がっていて、『飛燕』では緑の光が様々な形に変えてディスプレイを駆け巡り、『春雷』ではカラフルな配色のペンキがリズミカルに塗り重ねられて春の鮮やかを感じさせるなど、楽曲の世界観を強く際立たせる仕掛けが施されていた。スタンドの一番上段から地面の映像がよく見え、コンパクトかつスタンドの斜面に角度がある武道館の構造をしっかり意識しているんだなぁと感じた。また、他にも『ゆめくいしょうじょ』や『love』ではステージの前に下した幕を使ってアニメーションを提示するなど、曲ごとのストーリーがオーディエンスに伝わるような工夫もなされていた。

 

米津玄師という名を全国に知らしめるきっかけとなった名曲『アイネクライネ』を披露した後は、きらびやかな星屑が映し出されたステージの上で『orion』を深く豊かな情感で空間に響かせる。喉が本調子ではないのか特に序盤は高音部が出にくそうで、ファルセットが出きれてない所があり、少し声の状態が心配になる。とはいえ去年のライブでも感じたことだけど、声に奥行きと迫力があり、歌唱力という部分で強度が増しているのは明白で、シンガーとしての大きな成長を感じる。それにしても米津さんのビブラートは本当に美しい。

 

「本当にありがてぇありがてぇ」など、ライブを通してしつこいと思うほど何度も何度も会場にいるファンに感謝の言葉を口にする米津。感謝の気持ちはツアーを通して彼の中で沸々と秘めていた想いなのだと伝わってくる。

「世の中めんどくせえことばっかりですけど、今日この日を美しい瞬間にするためには一人じゃ何にもできません。皆さんの力が必要です。ついてきてくれますか!?(ワァー!)ついてきてくれますか!?(ワァー!)ついてきてくれますか!?(ワァー!!!)」と流れるようなコール&レスポンスから『LOSER』をドロップ。一段と勢いを増す会場のボルテージに乗っかって、ハンドマイク姿の米津がエモーショナルかつパワフルに感情をぶつけてくる。曲の途中から、世界的ダンサーであり米津のダンスの師匠でもある辻本知彦が登場。上裸の美しい肉体から、同じ人間とは思えないほどしなやかな動きで芸術的に舞う辻本とそれに溶け合うようにシンクロする米津のダイナミックなパフォーマンス。魂が震えた。

この勢いに乗って、『ゴーゴー幽霊船』や『爱丽丝』、『ドーナツホール』といったアッパーなサウンドを次々に繰り出す。米津の圧倒的で情熱的なステージでの振る舞いに乗せられて、自分ではどうにもできないほど自然と体が動いてしまう。あらゆる細胞が米津の歌と共鳴し、高揚していく感じがたまらなく気持ち良い。それはまた皆も同じようで、ハンズアップしたり、体を上下左右に揺らすなど好きなように音楽で浸ってる人でフロアは溢れ、強烈な熱気に満ちていた。「ヤバイ」「ヤバイ」と周りから興奮の声が聞こえてくる。

会場のみんなで手を挙げ掲げた『ピースサイン』。ステージ上でギターをかき鳴らしながら高らかに歌うその姿は、僕らに勇気や希望を与えてくれる頼もしいヒーローに見えた。

終盤に差し掛かると、2017年大きな話題を呼んだDAOKOとのコラボ曲『打上花火』を披露。オレンジの照明に照らされた幻想的なステージで辻本顔負けの流れるようなダンスを踊りながら、しっとり歌を奏でる姿に思わずウットリしてしまう。

BOOTLEG」で最後に制作されたアルバムの核ともいえる1曲『Moonlight』では、米津の柔らかで深みに満ちた歌に合わせて、菅原小春(友人であり、これまた世界で活躍するダンサー)が妖艶な舞いを披露し、ダークでミステリアスな世界観が武道館を支配する。過去の楽曲とは全く異なる、多くの日本人がなかなか聴き慣れないサウンドでフロアを制圧するその光景は、他では見れない光景だろうし、それがまた日本で先頭を切って走るアーティストのライブであることに彼の凄みを感じる。私たちは米津というフィルターを通して世界の、過去の、そして今の音楽を知ることができる。彼の音楽を聴く人で洋楽に詳しい人もそんなに多くはないだろうから、リンクマンとして果たす役割は大きいのだと思う。

アルバムの最後に収録されている壮大なバラードソング『灰と青色』と共に豪快なテープキャノンが放たれ、ライブ本編は華々しいフィナーレを飾った。

 

アンコール。この日公演に参加したバンドメンバーと2人のダンサーを紹介後、小学校からの友人であり、ライブのギタリストを務める中ちゃんこと、中島宏と武道館や今回のツアー「BOOTLEG」への想いを語り合う。途中、うまく言葉に出ない場面もあったが、「本当に1人じゃできなかった」と2017年11月から始まったツアーやアルバム制作を通して、多くの人が協力してくれたありがたみやチームがもたらすパワーの強さを語る姿がとても印象的だった。

最後に米津玄師は、自身の愛する宮沢賢治の『春と修羅』の1節を残し、『Neighborhood』と『アンビリーバーズ』を披露し、武道館初日のライブは幕を閉じた。

 

途中でマイクを落としたハプニングもそうだけど、歌詞が飛んでしまったり、高音部が出し切れない部分もあり、今宵は完璧なパフォーマンスではなかったのかもしれない。しかし、それさえも難なくクリアしてしまう対応力の高さと武道館というステージで堂々と躍動する姿を見て、初めて彼を見た2年前のライブからは想像できないほどスケールアップを遂げているのだと実感した。また、以前よりパフォーマンスの自由度も高まっていて、ライブパフォーマーとしての独自性が色濃く出てきていると見て取れた。

アーティストにとって数多くの歴史が詰まっている武道館というステージは彼が歌うと小さく見えたのだが、それは米津玄師にとって、ここは単なる通過点に過ぎないことを示しているのだろう。

殻に閉じこもった孤独の世界で自らの音楽を作り上げた人間が、楽曲を通して他者と積極的に関わり合い、スタイルを再構築し、その先にたどり着いた「BOOTLEG」という新たな境地。アンコール最後の『アンビリーバーズ』で見せたステージ上で2人のダンサーと自由に戯れる姿は、昔では考えられなかったことかもしれない。何かと関わることで傷つき、苦しめられることもあるだろう。しかし、今の米津にとっては他者との接触が間違いなく自分を前進させるものになってるし、実際にどんどん進化している。

これからもたくさんの人と関わり、色んなエッセンスを吸収していくのだろう。そんな米津が今後僕らにどんな作品を提示してくれるのか本当に楽しみでならないし、今から待ち遠しくて仕方ない。

 

米津玄師 2018LIVE 「Fogbound」@日本武道館1日目 セットリスト

1.fogbound

2.砂の惑星

3.ナンバーナイン

4.飛燕

5.春雷

6.かいじゅうのマーチ

7.アイネクライネ

8.orion

9.LOSER

10.ゴーゴー幽霊船

11.爱丽丝

12.ドーナツホール

13.ピースサイン

14.Nighthawks

15.love

16.打上花火

17.Moonlight

18.灰色と青

アンコール

19.ゆめくいしょうじょ

20.Neighborhood

21.アンビリーバーズ